日本親会社からの資金供給と利益還流:増資・親子ローン・配当・ロイヤルティ・送金手続き
インド子会社への資金の入れ方(増資・親子ローン)と、利益の戻し方(配当・ロイヤルティ・技術料・役務費)を、外為規制、源泉税、日印租税条約、送金書類の観点で整理します。2026年2月施行の新ECB規則と、2026年4月施行の新所得税法の様式変更を反映しています。
このガイドでわかること
- 増資(FDI)と親子ローン(対外商業借入、ECB)の手続き・規制の違い
- 配当・ロイヤルティ・技術料・役務費を日本に払うときの源泉税と、日印租税条約の限度税率
- 海外送金に必要な税務書類(2026年4月から様式番号が変更)
資金を入れる方法
増資(FDI)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 承認 | 自動認可ルートの業種なら事前承認不要 |
| 価格 | 非上場会社は国際的に認められた評価手法による公正価値以上(CA、SEBI登録マーチャントバンカー等の評価) |
| 割当期限 | 送金受領から60日以内。過ぎたら15日以内に返金 |
| 報告 | 割当てから30日以内にFC-GPR(FIRMSポータル) |
| 会社法 | 割当報告(PAS-3)を割当てから15日以内 |
| 年次 | 毎年7月15日までにFLA報告 |
増資は返済不要で、子会社の財務体質を強くします。一方で、資金を戻すには配当か減資が必要で、減資は手続きが重くなります。
親子ローン(ECB)
2026年2月9日付の改正規則(FEMA 3(R)(5)/2026-RB)で、ECBの枠組みが全面的に見直されました。
| 項目 | 2026年改正後の内容 |
|---|---|
| 貸し手 | インド国外の居住者全般(従来の「外国株主」要件はなし) |
| 最低平均期間 | 原則3年。製造業は残高1.5億米ドル以内なら1〜3年も可 |
| 金利・コスト | 市場実勢に沿った水準。平均期間3年未満は貿易信用のコスト上限内 |
| 借入上限 | ECB残高10億米ドル、または借入総額が純資産の300%以内のいずれか大きい方 |
| 資金使途の制限 | 不動産業、チット・ファンド、農業・植林(一部除く)、証券取引(戦略的な買収等を除く)など |
| 報告 | Form ECB 1でローン登録番号(LRN)を取得してから実行。実行・返済のあった月の翌月7日以内にForm ECB 2 |
関係会社間の貸付は独立企業間の条件である必要があり、金利水準は移転価格の検討対象にもなります。インドで支払う利子には源泉税(条約上限10%)がかかります。
増資とローンの選び方
- 長期の事業資金、赤字が続く立ち上げ期 → 増資が向きます。
- 一時的な運転資金、将来の回収を見込む資金 → ローンが向きます。利子はインドで損金になりやすい一方、過少資本・利子控除制限の論点があります。
利益を戻す方法
| 方法 | インド国内法の源泉税 | 日印租税条約の上限 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 配当 | 20% | 10% | 会社法上の分配可能利益の範囲内。配当は損金にならない |
| ロイヤルティ(商標・技術ライセンス) | 20% | 10% | 契約書、移転価格、インドでの損金性 |
| 技術上の役務の対価(技術料) | 20% | 10% | 役務提供の実在を示す資料。出張者のPEリスク |
| 外貨建て借入の利子 | 20% | 10% | ECB規則の遵守 |
| 経営指導料・共通費の配賦 | 内容による | 内容による | 便益テスト、移転価格で否認されやすい |
国内法の税率には、サーチャージと4%の教育目的税が加わります。条約税率と国内法税率のうち有利な方を選べます(2026年10月時点)。
配当
インドには現在配当分配税はなく、株主側で課税されます。日本の親会社は、外国子会社配当益金不算入制度(持株25%以上など)により配当の95%が益金不算入となり、インドで源泉された税は原則として外国税額控除の対象外になります。
ロイヤルティ・技術料・役務費
インド側での損金算入と、日本側での収益計上の両方に関わるため、税務調査で論点になりやすい取引です。
- 契約書、請求書、役務提供の記録(報告書・メール等)を残す。
- 料率・金額を移転価格の観点で説明できるようにする(移転価格の基本)。
- 日本からの出張者が長期間インドで役務を提供すると、日本の親会社がインドにPE(恒久的施設)を持つとみなされるおそれがあります。滞在日数と業務内容を管理してください。
送金の手続き(2026年4月以降)
- 条約適用の準備:日本の親会社が、日本の居住者証明書(所轄税務署で取得)とForm 41(旧10F)をインドの所得税ポータルで提出します。PANがあると手続きが円滑です。
- 会計士証明(Form 146、旧15CB):課税対象の送金が年50万ルピーを超える場合、CAが税率と条約適用を確認して証明します。UDINの記載が必要です。
- 送金申告(Form 145、旧15CA):支払者が所得税ポータルで提出します。金額や課税の有無によりPart A〜Dを使い分けます。
- 源泉税の納付:翌月7日までに納付し、四半期ごとにForm 144(旧27Q)で報告します。
- 銀行での送金:Form 145・146の受付票、送金依頼書(Form A2)、契約書・請求書、取締役会決議(配当の場合)をAD銀行に提出します。
2026年3月31日以前に提出した15CA・15CBは、そこに記載した日までに送金した場合に限り有効です。それ以降は新様式で作り直してください。
よくある失敗・注意点
- 居住者証明書やForm 41の準備が遅れ、国内法の20%で源泉される。
- 新様式(Form 145・146)への切替えを銀行担当者と確認せず、送金が止まる。
- 契約書を作らずに役務費を請求し、インドで損金不算入、源泉漏れを指摘される。
- 2026年改正前のECB規則(コスト上限、外国株主要件)を前提にローン条件を設計する。
- 増資後のFC-GPR、ECBのLRN取得を忘れ、外為法違反となる。
次にやること
- 増資の手順はインド子会社の設立手順、報告の期限は年間コンプライアンス・カレンダーで確認してください。
- 日本側の税務処理は日印の税務の基本、取引価格の設定は移転価格の基本を参照してください。
個別の判断は専門家(CA・弁護士・税理士)にご確認ください。
このテーマのよくある質問
最低資本金はありますか?
会社法上、非公開会社の一般的な最低資本金の定めはありません(2026年10月時点)。ただし、業種によってはFDI政策や個別の業法で最低資本要件が課される場合があります。実際には、設立後の運転資金や就労ビザ、取引先からの信用も考慮して資本金額を決めます。
親会社に中国資本が入っている場合、インドへの投資に影響はありますか?
影響する可能性があります。Press Note 3(2020年)により、インドと陸上国境を接する国の者が投資者または実質的支配者である場合は政府承認が必要です。2026年3月15日付のPress Note 2(2026)で、該当国の実質的所有が10%の基準を超えず支配権を伴わない場合は自動ルートが認められる形に緩和されました(2026年10月時点)。株主構成を早めに整理し、専門家に該当性を確認してください。
出資金を送金した後に必要な手続きは何ですか?
株式を割り当てた後、AD銀行を通じてRBIのFIRMSポータルでFC-GPRを提出します。一般に割当から30日以内が期限で、遅れると遅延提出手数料が課されます。事前にFIRMSで会社情報の登録(Entity Master)を済ませ、株式価格の評価書も準備しておきます。