インド移転価格の基本:関連者取引、ALP算定方法、会計士報告書、文書化、セーフハーバー、日印APA
日本本社とインド子会社の取引で必ず問題になる移転価格税制について、対象取引、独立企業間価格(ALP)の算定方法、会計士報告書(旧Form 3CEB)、マスターファイル・ローカルファイル・CbCR、セーフハーバー、日印の二国間APAを2026年10月時点で整理します。
このガイドでわかること
- インドの移転価格税制の対象となる取引の範囲
- 独立企業間価格(ALP)の算定方法と、インド特有の「レンジ」の扱い
- 会計士報告書、マスターファイル、ローカルファイル、国別報告書(CbCR)の要否と期限
- セーフハーバーと、日印の二国間事前確認(APA)の使いどころ
- 日系子会社で指摘されやすい3つの論点
1. 対象となる取引
インドの移転価格税制は、関連企業(Associated Enterprise)との次の取引に適用されます。
- 国際取引:日本本社・海外グループ会社との物品売買、役務提供、ロイヤルティ、貸付・保証、出向者費用の精算、事業再編など
- 特定国内取引:インド国内の関連者間取引のうち、年間合計2億ルピー(20クロール)を超え、税優遇等に関係するもの
関連企業の判定は、持株26%以上、借入が資産の51%以上、取締役の過半数の任命権など、資本と実質支配の両面から行われます。日本本社の100%子会社であれば、本社との取引はすべて対象と考えてください。
2. ALPの算定方法
| 方法 | 内容 | 主な使用場面 |
|---|---|---|
| 独立価格比準法(CUP) | 第三者間の同種取引の価格と比較 | 利子、コモディティ |
| 再販売価格基準法(RPM) | 再販売の粗利で検証 | 販売子会社 |
| 原価基準法(CPM) | 原価に適正な利益を加算 | 受託製造、役務提供 |
| 利益分割法(PSM) | 関連者間で合算利益を分割 | 高度に統合した取引 |
| 取引単位営業利益法(TNMM) | 営業利益率を比較対象企業と比較 | インドで最も多用 |
| その他の方法 | 上記以外の合理的な方法 | 見積書、評価書など |
最も適切な方法を選ぶ必要があります。比較対象企業が6社以上あるTNMM・RPM・CPM・CUPでは、比較対象の35〜65パーセンタイルのレンジを使い、中央値で調整する仕組みです。複数年データも使えます。比較対象が少ない場合は算術平均と許容幅(卸売1%、その他3%)を使います。
3. 会計士報告書と文書化
会計士報告書(Accountant’s Report)
- 旧法のForm 3CEBに相当し、新規則ではForm 48とされています。
- 関連者取引の一覧、算定方法、ALPの結論をCAが証明します。
- 提出期限は申告期限の1か月前(10月31日)、申告期限は11月30日です。
- 2026年4月以降の課税年度分からは、比較対象企業や利益率、APA対象取引など、より詳しい開示が求められます。
3層の文書化
| 文書 | 対象 | 期限の目安 |
|---|---|---|
| ローカルファイル | 国際関連者取引があるすべての会社(一定の小規模取引は簡易化) | 会計士報告書の期限までに作成・保管 |
| マスターファイル | 連結売上500クロール超、かつ国際関連者取引が一定額超のグループのインド法人 | 申告期限まで(Form提出) |
| 国別報告書(CbCR) | 連結売上6,400クロール超のグループ | 親会社の会計年度末から12か月以内 |
日本の親会社が日本でCbCRを提出していれば、インドでは誰が提出したかを通知する手続きのみで足りるのが一般的です。文書の不備や報告書の未提出には、取引価額に連動する罰則などがあるため、期限管理は年間カレンダーに組み込んでください。
4. セーフハーバー
セーフハーバーは、一定の取引について所定の利益率・利率を満たしていれば、税務当局がその価格を受け入れる制度です。2013年に導入され、2026年3月に新法の下で改訂されました(2026年10月時点)。
- ソフトウェア開発、ITeS、KPO、ソフトウェア受託研究開発は「IT関連サービス」として1区分に統合され、売上基準と利益率が見直されています。
- 適用期間は、IT関連サービスで5年連続、その他の対象取引で3年選択できるようになりました。
- 自動車部品の受託製造、グループ内貸付・保証なども対象です。
- セーフハーバーを選ぶと、相互協議(MAP)は使えません。日本側で対応的調整を受けられない点に注意してください。
具体的な利益率と売上上限は、所得税規則の最新版で確認してください。
5. APA(事前確認)
| 種類 | 内容 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| ユニラテラルAPA | インド当局とだけ合意 | 日本側の課税リスクが小さい取引 |
| バイラテラルAPA | 日印の税務当局間で合意 | ロイヤルティや役務費など、両国で課税が起きやすい取引 |
- 対象期間は最長5年で、過去4年分のロールバックも可能です。
- 日印間では、相互協議を通じた二国間APAの合意実績が積み上がっています。日本側の窓口は国税庁(相互協議室)です。
- 2026年度予算で、APA合意後3か月以内に海外関連者が修正申告できる仕組みが整備されました。
6. 日系子会社で多い論点
ロイヤルティ
技術ライセンスやブランド使用料は、「インド子会社が実際に便益を受けているか」「料率が業界水準に合っているか」が問われます。売上の数%という料率でも、子会社が赤字の場合は否認されやすくなります。契約書・技術移転の記録・便益の説明資料を揃えてください。
グループ内役務費(管理費・本社費用)
本社のIT、人事、経理支援などの費用配賦は、「便益テスト」で否認される例が多い分野です。誰が何をしたか(作業記録、メール、成果物)と、配賦基準の合理性を毎年残すことが重要です。なお、役務費は技術料(FTS)として源泉徴収の対象になる場合もあります。
受託製造・受託開発
インド子会社が本社の指示で製造・開発するだけのリスクの低い機能であれば、原価に一定の利益を乗せた「コストプラス」が基本です。ただし、子会社が独自に市場開拓や開発をしている場合は、より高い利益配分を求められることがあります。機能・リスク分析(FAR分析)と実態を一致させておきましょう。
よくある失敗・注意点
- 本社との契約書がない、または実態と合っていない
- 期末に一括で役務費を請求し、便益の証拠が残っていない
- 日本側の移転価格文書とインド側のローカルファイルで、機能の説明が矛盾している
- 会計士報告書の期限(10月31日)を法人税申告期限と混同する
- 赤字が続く子会社で、ロイヤルティ料率を見直していない
次にやること
- ロイヤルティ・役務費の源泉税はインドの法人税・源泉税と日印租税条約の基本とTDS実務ガイドを確認する
- 文書化と報告書の期限を年間コンプライアンス・カレンダーに登録する
- 貸付・保証による資金供給は資金調達と資金回収で比較する
- 本社との役務取引にかかるGSTはインドGSTの基本を参照する
個別の判断は専門家(CA・弁護士・税理士)にご確認ください。
このテーマのよくある質問
日本本社がロイヤルティや技術指導料を受け取る場合の源泉税率は?
日印租税条約では、使用料(ロイヤルティ)と技術役務料(FTS)の源泉税率はいずれも10%です(2026年10月時点)。条約を適用するにはTRCなどの書類提出が必要で、送金時には送金者の申告とCAの証明(2026年4月以降はForm 145/146)も必要になります。関連者間取引のため、移転価格の文書化も求められます。
日本本社との取引には移転価格税制が適用されますか?
適用されます。日本本社など国外関連者との物品売買、役務提供、ロイヤルティ、借入などは独立企業間価格(ALP)で行う必要があり、文書化とCAによる報告書の提出が求められます。税務リスクを抑えたい場合は、セーフハーバーや事前確認制度(APA)の利用も検討できます。
日本本社に請求するサービス輸出にGSTはかかりますか?
要件を満たすサービス輸出はゼロ税率扱いで、誓約書(LUT)を年度ごとに提出しておけばIGSTを納付せずに輸出できます。LUTを提出しない場合はIGSTを納付し、後で還付を受けることになります。外貨での受領など、輸出に該当する要件を満たしているか確認してください。