インドの法人税・源泉税と日印租税条約の基本:税率の選択肢、MAT、条約税率、PE、外国税額控除
インド子会社の法人税率の選び方、MAT、日本親会社への配当・利子・ロイヤルティ・技術料にかかる源泉税と条約税率、Form 41(旧10F)とTRC、PEの考え方を、2026年4月施行の新所得税法を踏まえて整理します。財務・経営企画向け。
このガイドでわかること
- インド子会社が選べる法人税率と、実効税率の目安(2026年10月時点)
- 2026年度予算で見直された最低代替税(MAT)のポイント
- 日本親会社への配当・利子・ロイヤルティ・技術料の源泉税(国内法と日印租税条約)と、条約適用に必要な書類
- 恒久的施設(PE)の考え方と、日本側での二重課税の調整方法の概略
1. 新しい所得税法への移行
2025年所得税法は2025年8月に成立し、2026年4月1日に施行されました。実施規則として「2026年所得税規則(Income-tax Rules, 2026)」が2026年3月20日に告示されています。
実務上の大きな変化は次のとおりです。
- 「前年度(Previous Year)」と「査定年度(Assessment Year)」が「課税年度(Tax Year)」に一本化
- 源泉徴収(TDS)規定が第393条などに集約(詳細はTDS実務ガイド)
- 租税条約の適用規定は第159条、自己申告書はForm 41へ(旧第90条・Form 10F)
2026年3月31日以前の取引や年度には旧法が適用されるため、移行期は新旧の条文番号が混在します。社内規程や契約書の条文引用も見直しておくと安全です。
2. 法人税率の選択肢(2026年10月時点)
| 区分 | 基本税率 | 実効税率の目安 | 主な条件 |
|---|---|---|---|
| 内国法人・通常税制 | 25%(売上40億ルピー以下)/30% | 約26〜35% | 各種優遇・加速償却が使える |
| 内国法人・簡素化税制(旧115BAA相当) | 22% | 約25.17% | 優遇・加速償却・一部の繰越欠損を放棄。MAT対象外 |
| 新設製造会社税制(旧115BAB相当) | 15% | 約17.16% | 2024年3月31日までの生産開始が条件のため、新規進出では原則使えない |
| 外国法人(支店・PE) | 35% | 約36.4〜38.2% | サーチャージ2%/5%+教育目的税4% |
実効税率は、所得規模に応じたサーチャージと4%の保健教育目的税(Health and Education Cess)を含めた値です。新設の子会社であれば、22%税制を初年度から選ぶのが一般的です。選択は申告書の提出時に行い、一度選ぶと原則として戻れません。
3. 最低代替税(MAT)
MATは、会計上の利益(Book Profit)に一定率を掛けた額が通常の法人税を上回る場合に課される最低税です。2026年度予算(Finance Act, 2026)で次のように変わりました。
- 基本税率:15% → 14%(2026年4月1日以降の課税年度)
- 通常税制に残る内国法人:MATは最終税となり、新たなクレジットは発生しない
- 22%・15%税制へ移行する内国法人:蓄積したMATクレジットを通常税額の25%を上限に利用可能
- 22%税制を選んだ会社には、もともとMATは適用されません
税務上の優遇を多く受けている会社ほど影響が大きいため、税制選択の再検討材料になります。
4. 日本親会社への支払いと源泉税
| 支払いの種類 | 国内法(2025年法第207条等) | 日印租税条約 |
|---|---|---|
| 配当 | 20%+サーチャージ・教育目的税 | 10% |
| 利子 | 原則20%(一定の外貨借入は5%など) | 10%(政府系機関等は免税あり) |
| ロイヤルティ | 20%+サーチャージ・教育目的税 | 10% |
| 技術上の役務に対する料金(FTS) | 20%+サーチャージ・教育目的税 | 10% |
条約税率を適用する場合、サーチャージと教育目的税は上乗せされません。日印条約のFTSは「経営・技術・コンサルティングの性質を持つ役務の対価」と広く定義されており、日本本社からの技術指導や管理サービスの多くが該当し得ます。
条約適用の書類
- 日本の所轄税務署で居住者証明書(TRC)を取得(インドの会計年度に対応する期間が必要)
- インドのe-FilingポータルでForm 41をオンライン提出し、TRCを添付
- インドの支払者(子会社)に写しを渡し、条約税率で源泉徴収してもらう
Form 41とTRCがなければ、支払者は国内法の税率で源泉徴収しなければなりません。インドのPANがない非居住者でも、OTP認証で提出できます。
濫用防止(MLI)
日印条約はBEPS防止措置実施条約(MLI)で修正されており、主要目的テスト(PPT)が入っています。条約の恩典を得ることが主な目的の一つと認められる取引には、軽減税率が否認されることがあります。TRCは「適用資格の条件」にすぎず、実体の説明が求められる場合があります。
5. 恒久的施設(PE)の考え方
日本本社がインドにPEを持つと認定されると、そのPEに帰属する利益に35%(+サーチャージ等)の法人税がかかります。日印条約上の主なPEは次のとおりです。
- 固定的施設PE:支店、事務所、工場など事業を行う一定の場所
- 建設PE:建設・据付・組立工事やその監督が6か月を超える場合
- 代理人PE:インドで日本本社のために契約締結権限を常習的に行使する者、在庫を保有して引渡す者、注文を常習的に取得する者(MLIにより、コミッショネア型の取引も対象に)
日印条約には一般的な「役務PE(サービスPE)」の規定はありません。ただし、出向者が実質的に日本本社の業務をしている場合や、子会社のオフィスを本社が自由に使っている場合には、固定的施設PEや代理人PEを指摘される例があります。出向契約・費用負担・指揮命令系統を文書で整理しておくことが大切です。
6. 日本側での二重課税の調整(概略)
- 配当:持株25%以上・6か月以上保有の外国子会社からの配当は、95%が益金不算入です。この場合、配当にかかったインドの源泉税は損金に算入できず、外国税額控除の対象にもなりません。
- ロイヤルティ・技術料・利子:インドで源泉徴収された税は、控除限度額の範囲内で外国税額控除の対象になります。条約上限(10%)を超えて徴収された部分は控除できないため、インド側で還付請求が必要です。
- 日印条約には、みなし外国税額控除(タックス・スペアリング)はありません。
よくある失敗・注意点
- Form 41を出さずに支払い、20%超で源泉徴収されてしまう(超過分は日本で控除できない)
- TRCの対象期間がインドの会計年度(4月〜翌3月)とずれている
- 技術指導料を「経費精算」として送金し、FTSの源泉徴収漏れになる
- 出向者の役割整理が不十分で、PE認定のリスクを抱える
- 新法施行後も旧条文番号(115BAA、195、Form 10F等)のまま書類を作っている
次にやること
- 送金の源泉徴収手続きはTDS(源泉徴収)実務ガイドで確認する
- ロイヤルティ・役務費の価格設定は移転価格の基本を参照する
- 配当・資本の還流方法は資金調達と資金回収で比較する
- 年間の申告期限は年間コンプライアンス・カレンダーに登録する
- 進出形態ごとの税負担の違いはインド進出の形態を選ぶを参照する
個別の判断は専門家(CA・弁護士・税理士)にご確認ください。
Questions on this topic
インドの会計年度はいつからいつまでですか?日本の決算期に合わせられますか?
インドの会計年度は原則として4月1日から翌年3月31日までです。会社法上、外国の親会社の連結決算のために別の会計年度を採用する場合は審判所の承認が必要で、所得税は会計年度に関係なく4月〜3月の年度で申告します。3月決算の日本企業であればそのまま揃います。
インド子会社から日本本社への配当にかかる源泉税率は?
日印租税条約では配当の源泉税率は10%です(2026年10月時点)。インド国内法の税率(20%)より有利なため、日本本社が居住者証明書(TRC)などを提出することで条約税率を適用できます。日本側では外国子会社配当益金不算入制度の対象となるか確認してください。
日本本社がロイヤルティや技術指導料を受け取る場合の源泉税率は?
日印租税条約では、使用料(ロイヤルティ)と技術役務料(FTS)の源泉税率はいずれも10%です(2026年10月時点)。条約を適用するにはTRCなどの書類提出が必要で、送金時には送金者の申告とCAの証明(2026年4月以降はForm 145/146)も必要になります。関連者間取引のため、移転価格の文書化も求められます。